縁の下のもち

読んだ本の感想や、日々感じたことなど書きます。

恩田陸 麦の海に沈む果実

はい、たった今読み終わりました。
私は恩田陸さんの作品を読むのは「ドミノ」以来で2作目です。
とても読みやすい文章で、さらに先が気になる内容のため
時間を忘れてすらすら読み進めることができました。
今回読んだ「麦の海に沈む果実」も次々と謎が出てきて
早く真相が知りたい!!と逸る気持ちを抑えながら読みました。
終始理瀬の一人称で物語が進んでいくため、
まるでスリル満点のRPGゲームをしている気分になりました。

というわけで、印象に残った場面、
台詞などをいつものように羅列していきます。


4本の尖塔

青い丘にそびえたつ塔。理瀬はこの学園に来るとき、塔から女性の声のようなものを聞き、
セイレーンを連想しています。Wikipediaによると、

セイレーンは、ギリシア神話に登場する海の怪物である。複数形はセイレーネス。
上半身が人間の女性で、下半身は鳥の姿とされるが後世には魚の姿をしているとされた。
海の航路上の岩礁から美しい歌声で航行中の人を惑わし、遭難や難破に遭わせる。
歌声に魅惑された挙句セイレーンに喰い殺された船人たちの骨は、島に山をなしたという。

となっています。
読み終わった後に考えてみると、生徒によってはセイレーンの歌声のような
魅力的な学校に誘われ、内部でじわじわと殺されてしまうというようにも解釈できますね。(強引)


4本の尖塔ですが、私の脳内では完全にサグラダファミリアのイメージでした。
青い丘にそびえたつ4本の尖塔。不気味ですね。



天使の石像

校長の家の近くの広場にある頭の無い石像。
40体近くある。破片は見当たらないため昔からこの状態であると推測される。

これ、どういうことなんでしょうかね。序盤に描写されて以来
言及されることがありません。(たぶん)
頭の無い天使、というと私はサモトラケのニケが頭に浮かびました。
もっとも、ニケは天使ではなく女神なのですが。
しかし、このサモトラケ島という所の歴史を調べてみると青い丘と似ている点がいくつかあるように思います。
詳しいことまで理解できていないため説明はできませんが。。。勉強不足で申し訳ないです。
もしかしてモチーフだったりするのでしょうか。セイレーンもギリシア神話ですし。


憂理

理瀬のルームメイトです。印象に残った台詞を引用します。

理瀬、ここに慣らされちゃだめよ。でないと、ここは本当の墓場になっちゃうわ。
実際に、ここを墓場にさせられた奴がいっぱいいるんだから。いいとこだけ取って、
マイペースでやっていくことね。

捉えようによっては天国のようなこの学校。その「捉えよう」に罠がある気がします。
環境への不満で押しつぶされないように、不満を感じないように適応する。
そうすることで快適に暮らせるようになる。

何か心当たりがありませんか??

そうです。会社と同じです。多くの人は入社したての時は不満が沢山あり、
ストレスを沢山抱えて毎日疲弊して帰宅します。そのうちストレスに耐えられなくなると、
防衛本能でストレスを感じないように鈍感になります。
そうやって会社にとって都合の良い人間が出来上がるというわけですね。
だから辛くても完全に慣れてしまってはいけません。

これは私自身へ言い聞かす意味でもあります。 笑



校長

この学園の校長。先代の父から引継ぎ2代目。
はい。みなさん大好き校長先生ですね。読んでいる途中はこの校長に
沢山惑わされました。何か事件が起こるたびに校長に対しての疑惑が浮かんでは消え、浮かんでは消え。。。
とても怪しい挙動をしたかと思うと頼りになる行動をしたり。
元々医者だったこともありとても頭がいいようなので
すべて校長の掌の上で転がされているような気がして疑心暗鬼に陥りますね。

校長の台詞でとても印象に残っているものがあります。以下引用です。

人間、未知の物に対しては不安になる。腹を立てる。疑い深くなる。心が狭くなる。
例えば、君が今電車に乗っているとする。ところが、突然駅と駅の間で電車が止まってしまった。
そのまま電車はずっと止まっている。君はどう思う?不安になるね。
そのうち、いらいらして怒り出すだろう。これはなんの不安、なんの怒りだと思う?
情報がないことに対する不安と怒りなんだ。人間が異性に対して不安や怒りを
覚えるのも、自分の中に相手の情報がないこと、理解できないことに対してなのさ。
それを解消するには、体験してみるしかないだろう。
知っていれば人は寛大になれるもの。

p293

これはとても深い言葉ですね。人間は年齢を重ねると丸くなる、と言われますが
まさにこの言葉のとおりということでしょう。若いうちはまだ人生の経験が浅く、
様々なことに対して寛容になれずにいらいらしたり不安になってしまう。
酸いも甘いも経験してきた人は、自分に置き換えることができるので
寛容になれるのでしょうね。やはり実体験にはかないませんが、
読書をすることでも様々な体験ができるので寛容になることが
できるのではないでしょうか。私も沢山読書をして寛容になりたいものです。



黎二

この物語の中で私が一番好きな人物ですね。
特に印象に残っているのは、自らの過去を理瀬に話す場面ですね。
とてもかわいがっていた妹を惨殺し、さらに心無い言葉を妹に投げかける母を見て
衝動を抑えられなかった黎二。ここは私も読んでいて腹が立ちました。
妹のことなど全然知らない私でさえ怒りを覚えるくらいですから
普段から親しみを込めて接していた黎二の心境を察するとやり切れない気持ちになりますね。
可愛がっていた妹、そして殺されてしまった麗子。どちらも大切な存在であったのに
守れなかった。そんな自分に罪悪感を覚えていたようですね。
しかし、終盤理瀬が実は生きていた麗子に殺されかけた場面では
咄嗟に駆けつけてくれて理瀬を守り麗子とともに崖から転落してしまいます。
黎二は理瀬という大切な存在を守ることができたのです。自分の命と引き換えに。
しかし麗子を殺してしまわねばならないとは悲しいですね。
所作がとても上品で、ワルツも上手。こんな学校にいなければ
間違いなく社会に貢献し、必要とされる人物であったことは間違いありません。
真相は明かされていませんが、理瀬の兄だったというのは本当なのでしょうか。


理瀬の正体

まさかの校長の娘でした。私は理事長が学校に変革をもたらそうとしていて
そのきっかけとして理瀬を使おうと考えていたのかと思っていました。
2月に転入した魔女のせいにしていろいろ事件を起こすとか、、、?

実際には麗子に殺されかけて記憶喪失になった理瀬の記憶を取り戻そうと
校長があの手この手で奮闘していたみたいですね。しかし終盤は自棄になったのか
娘である理瀬に対しても「黒い紅茶」を飲ませています。
校長には娘に対する愛情など無く、単なる跡継ぎとしてしか見ていないようですね。
まあ、理瀬自身もその上をいく野望家なんですが、、、



まとめ

すべての謎が解明されたわけではありませんが、読後感はとてもよく、満足しています。
密室殺人事件など、謎解き要素が沢山あり終始ハラハラしながら読み進めました。
「麦の海に沈む果実」は理瀬シリーズと言われており、他にも何冊かあるので
これから読んでいきましょうかね。

以上、終わり。