縁の下のもち

読んだ本の感想や、日々感じたことなど書きます。

東野圭吾 秘密

読了しました。


東野圭吾さんの本を読んだのは今作が初めてでした。


少し重い話で、主人公の葛藤が
過去の私の心境と重なったこともあり
途中読むのが辛い部分も
ありましたが、とても面白く
いろいろと考えさせられる作品でした。





平助の心の葛藤

私の中ではやはりこれが
一番印象に残っていますね。


事故で亡くした妻の直子の意識が
娘の藻奈美に憑依するのですが、
憑依されている状態の藻奈美は
平助にとっては妻の直子なんですよね。
始めの方は
なんだ、体が変わっただけで
これからも前と変わらず
夫婦仲良くやっていくんじゃないか、
と考えていましたがそうはいきませんでした。



橋本多恵子


藻奈美の通っている小学校の担任教師。

事故の後平助は始めはただの娘の
担任教師として接していましたが、
接していくうちに徐々に恋心、というか
なにか特別な心を抱くようになります。

普段は気にかけていなかった
先生のショーパンから伸びる脚だとか、
風に揺られる髪をかきあげる仕草だとかを
意識するようになってしまいます。

これは妻は生きているが体は娘なために、
妻に対する行き場のない
愛情や、肉欲が暴走してしまっているのだと思います。
事故の前の平助であれば
先生に好意に似た性的衝動を
抱くことはなかったことでしょう。



運動会で平助が撮影した先生の写真を
隠し持っていたのを直子が発見した時、
平助に向かって何も言及せず
気づかなかったふりをして
部屋から出ていったわけですが、
直子はどの様に考えたのでしょうか。
平助がこのまま行き場のない感情を
抱えながら人生を歩むより、
自分が藻奈美を演じることによって
この中途半端な関係を終わらせ、
お互いの新しい人生を歩む方が
いいのではないかと初めに考えたのは
この時だったのではないでしょうか。

愛する平助の為に自分を犠牲にする。
平助のことをほんとうに愛していたんでしょうね。切ないです。





相馬春樹

藻奈美が高校に入って入部した
テニス部の先輩。
相馬君、全然悪い人じゃないのに
平助目線で読んでいるので
めちゃくちゃ邪魔で鬱陶しく感じます。笑


相馬君がしたように
好きな人の自宅に電話をしたはいいが
親が出てどぎまぎする、というのは割と
皆さん経験があるのではないでしょうか。

最近は中学生にもなると
携帯電話が当たり前だから
そんなことはもうないのかなぁ。
便利な世の中ですねぇ。




この相馬君が電話してきたあたり
から平助の直子に対する邪推が始まります。

直子宛に来た郵便物を
バレないように開封したり
電話に盗聴装置を取り付けたり…
とても異常な行動ですが
平助としては直子が自分という夫がいながら
他の男と特別な関係になろうとしているのではないかと
心配した末の行動ですよね。


もし自分がこの辺の一連の流れと
同じ状況になったとしたら、
平助と同じように直子を疑ってしまっていると思います。

記事のはじめに書いた
心境が重なった、という部分がここです。
過去の自分を見ている様でとても辛かったです。
(盗聴や郵便物の開封等の行為はしていませんのであしからず…)






秘密

今作のタイトルである「秘密」ですが
なんのことを指しているのでしょうか。
まず直子が藻奈美に憑依しているということを
社会に隠しているという秘密がありますね。

次に、藻奈美の意識が戻ったという演技をし
平助を騙して直子は藻奈美として人生を歩もうとする、という秘密

最後に、平助はそれを知ってしまったが
直子には言わず知らないふりをする、という秘密。



直子の嘘については先程書いたとおり、
平助の事を思ってのことなんでしょうね。
しかし、ほんとうにそうなのか?
という疑問もあります。
藻奈美の結婚相手の梶川文也と
初めて会った際に、何か意味深な表現がされてますよね。
直子は文也に直子として恋をして
しまった、とは考えられないでしょうか。。

しかし、結婚指輪のくだりもありますから
私はそれすらも演技だったと
信じたいですね。
本当に恋をしてしまったなら
わざわざ生前身につけていた
平助との大切な指輪を加工してまで
身につける必要などないのではないかと私は考えます。


どちらにしろ、直子の意識があると
知ってしまった平助は
愛する直子を目の前で奪われてしまった事に違いありません。
この先一生苦悩しながら生きていくでしょう。
私なら耐えられません。



印象に残った場面


事故を起こした梶川幸広は
文也が自分の子供じゃないことを
わかっていながらそれでも
月10万以上の仕送りをしていましたね。

幸広は文也のことが発覚した後、妻と子供を置いて
家から出ていってしまいました。

しかし、文也が他人の子であったとしても、
今まで注いできた愛情は本物だったわけです。
他人の子です、はいじゃあサヨナラ、
という訳にはいかなかったのでしょうね。

例えば私の両親が実の親ではなかったとしても
今まで育ててきてくれたのは
紛れもなく今の親ですから、
私にとっては誰がなんと言おうと実の親なのです。
この辺は以前読んだ伊坂幸太郎さんの
重力ピエロに通じる所があるなぁと
感じながら読んでいました。

自分の幸せより、愛する者の幸せの為に生きる。
そんな幸広の姿勢に心打たれました。
立派な父親だと思います。




総評 とても深い作品 90点


読んでいる最中は辛い部分もありましたが
読み終わって感想を書いていると
とても深い、考えさせられる作品でした。

愛する人の為に自分を犠牲にする。
とても深い愛情が感じられました。



以上、散文ですが
東野圭吾 秘密 の感想でした。